イソ弁が、事務所から振られる案件以外で個人的に受任してきた案件については、売上がイソ弁に帰属するものとし、売り上げの何割かを納めるというスタイルが、多くの法律事務所に浸透しています。
その負担の割合は、感覚的には3割程度が相場ではないでしょうか。
ブラックな事務所だとそもそも個人受任が禁止とか、5割とかっていう話も聞きます。
しかし、雇用契約ではなく業務委託契約の事務所で、個人受任を禁止するというのはいかがなものでしょうか。
下請法や独禁法の適用まではないとしても、ボス弁という発注者とイソ弁という受注者との独立した関係で、個人受任を禁止する根拠は見当たりません。
そのような事務所で働いていても、顧問先は獲得できないし、未来はなく、一生イソ弁生活を強いられるのではないでしょうか。
よく芸能事務所で「奴隷契約」という言葉がささやかれますが、法律事務所でも「奴隷契約」を強いられることのないように十分注意したいものです。
ということで、個人受任を禁止とする事務所はブラックであり論外という前提で、以下、あらためて個人受任について考えてみたいと思います。
個人受任の何割かを事務所にいれなければならない理由とは?
ところで、なぜ個人受任の何割かを事務所にいれなければならないのでしょうか。
本来、個人事業主として売り上げた金額は全てその個人に帰属するはずです。
お気づきの通りですが、個人受任を受けるにあたって、事務所の以下のような設備環境を使用することになるからです。
① 事務所の会議室を使用する。
② 事務所の執務室を使用する。
③ 事務所のパソコンを使用する。
④ 事務所の電話機を使用する。
⑤ 事務所の複合機を使用する。
⑥ その他の備品を使用する。
⑦ 事務員さんの労働力を使用する。
⑧ 難しい案件は兄弁やボス弁に相談する。
個人受任を受けて、上記の設備環境を使用してもいい代わりに、その対価を支払う必要があり、それが個人受任の負担割合というものなのです。
考えてみてください、もしも使用が禁止されるとすると、カフェで打ち合わせをして、作業は自宅で行い、パソコン・電話は自分のもので、印刷はキンコーズやコンビニへ行き、事務員さんも手伝ってはくれず、全部自分でやることになり、かなり面倒なことになるのです。
したがって、イソ弁の側からしてみれば、3割程度であれば喜んで支払って個人受任を受けるべきです。
それが5割だと多すぎるし、1割だと優しすぎるというのが相場観ではないでしょうか。
個人受任を増やすことで、パートナーへの昇進や独立が見えてくる
さて、個人受任が増えてくると、パートナーへ昇格することや、独立することも視野に入ってきます。
独立については、「独立するタイミング」の記事に詳しく書いていますので、ここではパートナーへの昇格について考えてみましょう。
固定給をもらいつつ個人受任で稼いでいたイソ弁のスタイルから、稼ぎはすべて自分でして、固定費を支払うようになるのがパートナーです。
ここで一般民事の5年目くらいで考えてみましょう。
固定給が月額80万円ほど、年俸1000万円だったときに、個人受任で年額1000万円稼いでいたとすると、負担分3割の300万円を納めて、合計1700万円の収入だとします。
これが、パートナーになると、固定の年俸が消え、個人受任だけで年額1000万円だったのを、頑張って1200万円にできたとして・・・
そこから月額いくらを納めることができるでしょうか。
10~20万円しか納められないのであれば、それはパートナーというか、いわゆるノキ弁のイメージです。
するとやっぱりイソ弁というのは恵まれた立場だったということに気が付くと思います。
小規模な事務所だとそのような状況だと思います。
また、ある中規模の企業法務のイソ弁から聞いた話では、個人受任が3000万円くらいにならないとパートナーになることができないし、なってもメリットがないからなりたくない、とのことでした。
大手の四大事務所などは、イソ弁(アソシエイト)のときから年俸は2000万円を超えると聞きますし、それを雇う側になるには相当の収入が必要でしょう。
個人受任を増やしても、簡単にバラ色の将来が待っているわけではありません。
ですが、個人受任を増やすしか、弁護士として開花する道はありません。
もちろん事務所事件を頑張りながらも、個人受任を頑張りましょう。