【速報】「刑事手続のIT化」に向けた法改正の要綱(骨子)案が公表されました

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この度、法制審議会の刑事法部会において、「刑事手続のIT化」にまつわる法改正に向けた、要綱の骨子案がまとめられました。「民事手続のIT化」はすでに令和4年に法改正が行われましたが、刑事手続のIT化についても、今回の要綱骨子案をもとに法務大臣に答申がされ、来年(2024年)の通常国会に提出される見込みです。

それでは、この刑事手続のIT化によって、具体的には、一体どのような内容の改正がされるのでしょうか?

そこで、本記事では、法制審議会刑事法部会がまとめた要綱(骨子)案の中身を参考にしながら、刑事手続のIT化の内容について、簡単にご紹介していきたいと思います。時代に合わせて刑事手続がどのように進化していくのか、ご関心がある方は、ぜひこの記事を読んでいただけると幸いです。

目次

要綱(骨子)案の内容

今回の要綱骨子案によると、それぞれ法務大臣による諮問第百二十二号に対応して、大きく分けて3つの改正事項があります。

簡単に言うと、

  • 刑事手続の各段階で用いられる書面を電子化すること
  • 刑事手続の各段階における対面でのやりとりをオンライン化すること
  • IT化にまつわる犯罪を創設することその他の事項

の3つです。以下では、それぞれの中身を項目ごとに紹介していきたいと思います。

刑事手続の各段階で用いられる書面を電子化すること

この取り組みは、刑事手続きにおける書類の電子化を目指しています。これにより、訴訟関連の文書がデジタル形式で管理されるようになり、手続きの効率化と迅速化が図られます。電子化された書類は、伝達や保管の面での利便性が向上し、紙ベースの文書に比べて迅速かつ容易に取り扱うことが可能になります。

主に4つの改正が行われる予定です。

①訴訟に関する書類の電子化

1つ目は、「訴訟に関する書類の電子化」についてです。具体的には、

  • 訴訟記録等の電子化
  • 申立手続や告訴手続のオンライン化
  • 証人尋問の録画とその再生
  • 供述調書・署名押印の電子化

などが規定されています。

また、送達に関しては、民事訴訟法の規定が準用されています。

こうして、紙媒体が基本だった刑事裁判の記録等も多くの場面で電子化され、手続等もオンライン化されることになります

②電磁的記録による令状の発付・執行等に関する規定の整備

2つ目は、「電磁的記録による令状の発付・執行等に関する規定の整備」についてです。

これは、裁判官による令状発布や捜査機関による令状呈示などをオンライン化するものです。令状記載の裁判官の署名押印も電子化されます。これにより、例えば、逮捕状はオンラインで発布され、捜査官が、パソコン・タブレット等の画面に表示するか、書面に印刷して、これを被疑者に示すことになります。

「タブレットの画面に表示させて令状呈示する」というのは、従来の刑事ドラマの逮捕シーンで見るようなイメージとはかけ離れた新時代の刑事手続の象徴とも言えますね。もっとも、部会における議論では、電子令状は容易に偽物を作ったり、期限切れの令状を流用したりしやすいのではないかという懸念も示されていました。そのため、期限後はデータを消去する等の措置をとることも規定されています。

③電磁的記録を提供させる強制処分の創設

3つ目は、「電磁的記録を提供させる強制処分の創設」についてです。これは、従来の「記録命令付差押え」が、データをいったん記録媒体に記録した上で記録媒体を物理的に差押えするものであったのに対して、物の差押えを介在させずにデータのままでオンラインによる証拠収集を行えるようにするために、新たな強制処分(「電磁的記録提供命令」)を創設するものです。

さらに、このような処分を受けたことについて、裁判所の許可を得た場合には、秘密保持を命じることができるものとされています(「秘密保持命令」)。

これは、例えば通信事業者のような第三者が処分を受けた場合に、それを顧客である被疑者等に通知してしまい、罪証隠滅等をされるリスクを防止する機能があります。

注意すべき点として、「記録命令付差押え」と異なり、新たに創設された「電磁的記録提供命令」や「秘密保持命令」には違反に対する罰則が法定され、実効性が強化されています。さらに、その裏面として、不服申立手続も明記されました。

④電磁的記録である証拠の開示等

4つ目は、「電磁的記録である証拠の開示等」についてです。

これは、請求証拠の開示や類型証拠開示、主張関連証拠開示などの際に、開示対象となる証拠が電子化されている場合に備えて従前の規定を整備すること等を定めています。

開示される証拠書類が電子化されれば、弁護士側の負担も軽減され、まさに刑事手続のペーパーレス化への大きな一歩となりそうですね。

刑事手続の各段階における対面でのやりとりをオンライン化すること

このセクションでは、刑事手続きにおける対面でのやりとりをオンライン化することに重点を置いています。これは、映像や音声の送受信を通じて、裁判所の手続きや勾留質問、弁解録取などの過程をデジタル化することを意味します。この変更により、物理的な出頭の必要性が低減され、手続きがより迅速かつ柔軟に行えるようになります。

この分野では主に、3つの改正が行われる予定です。

①刑事施設等との間における映像と音声の送受信による勾留質問・弁解録取の手続を行うための規定の創設

1つ目は、「刑事施設等との間における映像と音声の送受信による勾留質問・弁解録取の手続を行うための規定の創設」についてです。裁判所における裁判官の面前での勾留質問、検察庁等における検察官の面前での弁解録取を、いずれもリモート通信のビデオ通話で行うことができるようになります。

ただし、被疑者・被告人にとっては目の前の人物がいかなる立場の者なのか理解しづらく、場所の移動がないままオンラインで勾留質問等を実施すると、こうした弊害がより増大するという意見も挙がったため、あらかじめ手続の趣旨を被疑者・被告人に対して告げるべきことも明記されています。

②映像と音声の送受信による裁判所の手続への出席・出頭を可能とする制度の創設

2つ目は、「映像と音声の送受信による裁判所の手続への出席・出頭を可能とする制度の創設」についてです。裁判所への出頭を要する手続のうち、公判前整理手続や裁判員等選任手続、被害者参加人の参加手続については、被告人の防御権との関係で問題が少ないため、「相当と認めるとき」という比較的緩やかな要件で認められています。

しかし、公判期日への被告人の出席は重大な意義を有するため、同様には語れません。

そのため、公判期日へのオンライン出頭は、

  • 事案の軽重、審理の状況、弁護人の数その他の事情を考慮した上、やむを得ない事由があり、被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがなく、かつ、相当と認めるとき
  • (a)傷病又は障害により出頭が著しく困難か
    (b)出頭によって被告人への加害や被告人の身柄の奪取・解放等が行われるおそれがあるとき

という要件①②をいずれも満たす場合に限定されています。

③証人尋問等を映像と音声の送受信により実施する制度の拡充

3つ目は、「証人尋問等を映像と音声の送受信により実施する制度の拡充」についてです。証人尋問については、鑑定証人が多忙な場合などを想定して、必要性を考慮してオンライン尋問を認めていますが、証人一般については、やはり公判での尋問を原則として、上記②(a)(b)に加えて(c)収容中の証人の精神的な平穏が著しく害され、処遇に著しい支障を生ずるおそれがある場合に限定して認められるものと定められています。

ただし、両当事者に異議がない場合は柔軟にオンライン尋問が認められています。

また、鑑定手続自体や通訳については、「相当と認めるとき」にはリモートで実施できるようになります。

IT化にまつわる犯罪を創設することその他の事項

この部分では、IT化に伴う新たな犯罪形態への対応策を提案しています。電磁的記録を用いた文書の信頼性を損なう行為や、電子計算機の損壊による公務執行妨害など、デジタル環境特有の犯罪行為を新たに処罰の対象とすることが検討されています。これにより、IT化の進展に伴うリスクに対処し、デジタル環境における法の執行を強化することを目指しています。

このセクションでは大きく4つの改正が行われる予定です。

①電磁的記録をもって作成される文書の信頼を害する行為を処罰するための罰則の創設

1つ目は、「電磁的記録をもって作成される文書の信頼を害する行為を処罰するための罰則の創設」についてです。これは、刑法上の文書偽造罪と同様に電子化された文書についても処罰するためのもので、例えば「公文書」に対応する「公電磁的記録文書」、「私文書」に対応する「私電磁的記録文書」などについて、紙の文書と同一の法定刑が定められています。

②電子計算機損壊等による公務執行妨害の罪の創設

2つ目は、「電子計算機損壊等による公務執行妨害の罪の創設」についてです。前述したように、刑事手続の過程でも書類の電子化が進められれば、従来の公務執行妨害罪にあてはまらない態様で妨害することが可能となる場合があります。これは、そうした場合に対処するための犯罪を創設するものです。

例えば、電子逮捕状の執行などを暴力的手段以外の方法(電波妨害など)によって妨害した場合、従来の公務執行妨害が適用できないため、この新たな罪が適用されることになります。

③新たな犯罪収益の没収の裁判の執行及び没収保全等の手続の導入

3つ目は、「新たな犯罪収益の没収の裁判の執行及び没収保全等の手続の導入」についてです。近年では、犯罪組織等によって、犯罪収益を暗号資産等の無体物によって移転させたり取得したりする手法が採られています。

これに対応するべく、没収の執行、保全命令の発令、保全命令の執行などを規定しています。

④通信傍受の対象犯罪の追加

4つ目は、「通信傍受の対象犯罪の追加」についてです。これは、いわゆる2項犯罪、つまり2項強盗罪や2項詐欺罪、2項恐喝罪について、犯罪捜査の権限を拡大するために、これらの罪についても通信傍受を可能にするものです。

それぞれ第1項の罪については、既に平成28年の法改正で通信傍受の対象犯罪に加えられており、昨今の犯罪情勢に鑑みて2項犯罪も対象となった形です。

日弁連会長の反対声明

これに対して、同日付で、日弁連会長である小林元治氏が上記のような要綱骨子案について反対声明を掲載しています。

その批判の内容としては、代表的なものとして以下の点が挙げられます。

  • 情報通信技術は、国民の権利利益の保護・実現のために活用するべきであるのに、専ら捜査機関の便宜のための制度を羅列し、オンライン接見等の被疑者・被告人側のための規定は取り入れられなかったこと
  • 電磁的記録提供命令の創設について、命令拒否には刑事罰まで法定され、プライバシーの権利等の憲法上の権利を保護する仕組みを欠くこと 

実際、部会において、弁護士側からの提言でオンライン接見の導入が議論されましたが、権利として明記しても人的・物的資源の制約により実現不可能であることが問題視され、改正で規定されるには至りませんでした。

また、「電磁的記録提供命令」は従来の「記録命令付差押え」を拡大するものですが、これまでは協力的な通信事業者等を対象としていたはずが、罰則の存在から、非協力的な被疑者・被告人その他の者に対しても多用されることが懸念されています。

さらに、この声明は、法制審議会のあり方についても批判を向けています。反対声明から該当部分を一部引用します。

法制審部会の委員・幹事の構成を見ると、法務省・検察庁から6名、裁判所から3名、警察庁から2名が選任されているのに対し、一般有識者は1名も選任されておらず、刑事弁護の立場の委員・幹事も委員1名しか選任されていない。研究者の委員・幹事は、法務省事務当局の提示した案への批判的意見は述べず、研究者委員・幹事の間で議論が交わされることもなかった。そもそも、法務省事務当局を担っているのは検事であるが、刑事裁判の一方当事者がこのようにして刑事立法の議論を取り仕切ることが、構造的に、国民の権利を軽視する結果を招いていることを指摘せざるを得ない。

法制審議会刑事法(情報通信技術関係)部会の要綱(骨子)案に反対する会長声明
https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2023/231218.html(2023年12月18日閲覧)

こうした指摘が正しいとすれば、今後は委員の構成や研究者の役割についても再考すべき部分があるかもしれません。

まとめ

以上、「刑事手続のIT化」に向けた法制審部会による要綱(骨子)案をご紹介してきました。刑事手続の世界もDXの波に乗り遅れないように早急な改正が望まれる一方で、法的には難しい論点も多数存在しています。

日弁連会長声明の批判にもあるように、いまだ要綱骨子案には不十分な部分もあり、法改正の段階では、現在とは異なる形に落ち着く可能性もあります。今後の議論の動向についても、引き続き注目していきましょう。

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