配達パートナーの新たな課題:AIによる管理
プラットフォームの発展と労働環境の変化
新たな労働プラットフォームが形成され、配達パートナーの労働環境や労働形態も問題視され始める中、日本でも配達パートナーが労組法上の「労働者」として認定を受けたことは記憶に新しいと思います(東京都労委命令令4.11.25)。
そうした配達パートナーは、フードを提供する企業とアプリ上でマッチングされ、配達を行います。企業と配達先の指揮・決定はまさにプラットフォーム企業のAI・アルゴリズムに委ねられています。配達パートナー達に直接命令を行うのはAIであり、その意味で配達パートナー達の上司はAIなのです。
配達パートナー向けのネット記事を概観すると、「差配AI攻略」「アルゴリズムに勝つ」などと称して、いかにして配達リクエストを多く受け・待機時間を減らし・効率的に配達を行うかの考察が行われています。
AI上司との対話不可能な環境
問題は、配達リクエストが極端に少なくなった場合などに挙げられます。
オンラインフード注文配達プラットフォーム上、公式にはアルゴリズムの概要が公開されておらず、「なぜ配達リクエストが少なくなったのか」についてアクセスできないのです。
上司が人間であれば、勤怠評価について、自分の何が悪かったのかについて聞くことができます。「なぜ」にアクセスし、業務の改善につなげることができます。
しかし、ここでの上司はAI。アルゴリズムも公式には公開されていない状態で、自分の何が悪かったかについてアクセスできず、ブラックボックスに葬られてしまいます。業務改善できず、ますます配達リクエストを受けられない事態も想定されます。
EU圏での取り組み事例
EUでは、「プラットフォーム労働における労働条件の改善に関する指令案」が採択され、プラットフォーム労働の従事者の労働条件と社会的権利の改善が企図されています。
特に、アルゴリズムによる従事者の管理に関して、
- 自動化された監視システム及び意思決定システムに関する情報の提供の義務付け。
例えば、業務の監視にAIを用いる場合にはその有無と、監視システムの対象となる行動やその行動がどれだけ重視されるかの事項情報提供。 - 自動化された監視・意思決定システムによる決定が労働者の身体的・精神的健康への影響を及ぼしていないか。
また、その予防・保護措置の導入等がなされているかの定期的な監視・評価の義務付け。 - 自動化された意思決定システムによる決定について説明を受ける権利の保障。
といった、AIによる自動化された監視・意思決定システムの規制として、大まかに3つの事項が定められています。
AI上司を取り入れながら、人間とAIとの関係を円滑に進め、またAIに使役される労働者側の権利にも配慮した指令案となっており、今後法律の制定に向かっています。
日本では、現在議論段階にとどまっており、プラットフォーム事業におけるAI上司と労働者の関係について、AIの発展と共に、労働者の権利も十分確保される法制度が整備されることが望まれます。
参考文献
- 独立行政法人 労働政策研究・研修機構「プラットフォーム労働における労働条件改善に関する指令案」