はじめに
突然ですが、国家公務員総合職試験の「法務区分」についてご存知でしょうか?
弁護士学園では、弁護士や法曹にまつわる情報を発信していますが、「国家公務員と何の関係があるの?」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、「法務区分」は少し特殊な区分であり、なんと「司法試験合格者」のみを対象とした国家公務員総合職採用試験の試験区分です。
そこで、本記事では、この「法務区分」について少し詳しく紹介していきたいと思います。国家公務員に興味がある方や国家公務員もアリだと考えている方は、ぜひこの記事を読んでいただけると幸いです。
国家公務員試験全体の概要
国家公務員は、憲法15条2項も規定する通り「全体の奉仕者」として、国民のために日夜業務に取り組んでいます。
そして、国家公務員に採用されるためには、まず、国家公務員試験に合格した上で、個別の府省等ごとに官庁訪問(面接等)を行って内定を得る必要があります。以下では、「法務区分」について解説するための前提として、国家公務員試験全体の概要を紹介していきます。
(1)種類
まず、そもそも国家公務員試験は大きく分けて以下の種類があります。
- 総合職試験
- 一般職試験
- 専門職試験
- 経験者採用試験
総合職試験は、いわゆるキャリア官僚を採用するための試験であり、大卒以上(又はそれと同等の資格)である必要があります。本府省を中心に採用され、政策立案等の国家にとって重要な業務を行います。
一般職試験は、高卒者(又はそれと同等の資格)である必要があります。本府省のほか、地方機関で採用される場合もあり、政策の実行等を行います。意欲と能力次第では総合職と同様の業務に携わることもあります。
専門職試験は、特定の職種のみを対象に採用するための試験であり、大卒も高卒もそれぞれに応じた試験があります。具体的には、皇宮護衛官や刑務官、海上保安官など、専門性の高い職種が多いです。
そのほか、これら若手の採用とは別に経験者採用試験も存在します。
(2)総合職試験の種類
次に、総合職試験に絞ってみると、学歴面における受験資格ごとに大きく分けて以下の区別があります。
- 大卒程度試験
- 院卒者試験
大卒程度試験の趣旨は、国家公務員試験を管轄している人事院によると、「政策の企画及び立案又は調査及び研究に関する事務をその職務とする係員の採用試験」とされています。
これに対し、院卒者試験の趣旨は、「政策の企画立案等の高度の知識、技術又は経験を必要とする業務に従事する係員の採用試験」とされており、院卒者の方が高度な知識や経験を求められています。
初任給は、大卒程度試験が236,440円、院卒者試験が268,000円です。
基本的な採用過程や採用後の勤務条件等はいずれも共通ですが、後述の区分や試験科目の一部に違いがあります。以上をまとめると、以下の表のようになります。
総合職試験 | 政策の企画及び立案又は調査及び研究に関する事務をその職務とする係員の採用試験 | 院卒者試験 院卒者試験(法務区分) 大卒程度試験 大卒程度試験(法務区分) |
一般職試験 | 政策の実行やフィ×ドバックなどに関する事務をその職務とする係員の採用試験 | 大卒程度試験 高卒者試験 社会人試験(係員級) |
専門職試験 | 特定の行政分野に係る専門的な知識を必要とする事務をその職務とする職員を採用する試験 | 大卒程度試験 高卒者試験 社会人試験(係員級) |
経験者採用試験 | 民間企業等経験を有する者を採用する試験 |
(3)総合職試験の区分
そして、総合職試験では、第1次試験(多岐選択式)及び第2次試験(記述式)について、各自の得意な専門分野ごとに、「区分」を選択することができます。区分は以下の通りです。
政治・国際・人文、法律、経済、人間科学、デジタル、工学、数理科学・物理・地球科学、化学・生物・薬学、農業科学・水産、農業農村工学、森林・自然環境
行政、人間科学、デジタル、工学、数理科学・物理・地球科学、化学・生物・薬学、農薬科学・水産、農業農村工学、森林・自然環境、法務
この、院卒者区分における「法務区分」こそが、本記事のテ×マである、司法試験合格者のみを対象とした特殊な区分です。
なお、院卒者試験の「法務区分」は大卒程度試験の「法律区分」とは異なります。後者は法学部生等を対象としたもので、司法試験の合格は不要です。
法務区分とそれ以外の区分の相違点
次に、国家公務員総合職試験(院卒者試験)のうち、法務区分とそれ以外の区分の相違点をピックアップしてご紹介していきます。
以下では、2024(令和6)年度試験の場合について記載しています。
(1)受験資格
- 1994(平成6)年4月2日以降生まれ
- 司法試験の合格
- 1994(平成6)年4月2日以降生まれ
- 大学院修士課程又は専門職大学院課程の修了(見込み含む)等
このように、「法務区分」では司法試験の合格が受験資格となっていることが最も特徴的です。
なお、「法務区分」は院卒者試験の一区分ですが、大学院の卒業は必須ではなく、司法試験の合格さえあれば良いので、例えば学部在学中に予備試験ル×トで司法試験に合格した場合など、厳密には大卒者であっても受験資格が認められます。
(2)試験科目
第1次試験:基礎能力試験(2時間20分の多岐選択式)
第2次試験:政策課題討議試験(おおむね1時間30分のグル×プディスカッション)、人物試験(個別面接)
第1次試験:基礎能力試験(2時間20分の多岐選択式)、専門試験(3時間30分の多岐選択式)
第2次試験:専門試験(3時間の記述式)、政策課題討議試験(おおむね1時間30分のグル×プディスカッション)、人物試験(個別面接)
このように、法務区分では専門試験の受験が不要となっています。これは、司法試験合格により、既に法務の専門的能力を有するものと考えられるためです。
(3)合格者の決定方法
上記のような試験科目の違いにより、合格者の決定にあたって各科目の配点も異なっています。
試験種目 | 基礎能力試験 | 政策課題討議試験 | 人物試験 |
---|---|---|---|
配点比率 | 2/7 | 2/7 | 3/7 |
試験種目 | 基礎能力試験 | 専門試験 (多肢選択式) | 専門試験(記述式) | 政策課題討議試験 | 人物試験 |
---|---|---|---|---|---|
配点比率 | 2/15 | 3/15 | 5/15 | 2/15 | 3/15 |
なお、これに加えて両区分ともに外部英語試験の成績による加算もあります。
(4)官庁訪問
国家公務員試験合格後は、官庁訪問(個別の府省等における就職活動)を行うことになりますが、「法務区分」は司法試験合格者のみという特殊性から、採用の対象となる府省等が通常の区分よりも限定されています。ここでは、理系を除いた「法文系」との間で、採用対象となる府省等を比較してみましょう。
行政区分 | 法務区分 | ||
---|---|---|---|
会計検査院 | ◯ | ◯ | |
人事院 | ◯ | × | |
内閣府 | ◯ | ◯ | |
デジタル庁 | ◯ | ◯ | |
公正取引委員会 | ◯ | ◯ | |
警察庁 | 事務系 | ◯ | × |
技術系 | × | × | |
科学警察研究所 | × | × | |
金融庁 | ◯ | ◯ | |
消費者庁 | ◯ | × | |
総務省 | ◯ | ◯ | |
消防庁 | × | × | |
法務省 | 施設課 | × | × |
民事局 | ◯ | × | |
矯正局 | ◯ | × | |
保護局 | ◯ | × | |
出入国在留管理庁 | ◯ | ◯ | |
公安調査庁 | ◯ | × | |
外務省 | ◯ | × | |
財務省 | 本省 | ◯ | ◯ |
財務局 | ◯ | ◯ | |
税関 | ◯ | ◯ | |
国税庁 | 事務系 | ◯ | × |
技術系 | × | × | |
文部科学省 | ◯ | × | |
厚生労働省 | 事務系 | ◯ | × |
人間科学系 | × | × | |
薬系 | × | × | |
数理・デジタル系 | × | × | |
技術系 | × | × | |
農林水産省 | 事務系 | ◯ | ◯ |
技術系 | × | × | |
経済産業省 | ◯ | ◯ | |
特許庁 | × | × | |
国土交通省 | ◯ | ◯ | |
気象庁 | × | × | |
海上保安庁 | 海洋情報部 | × | × |
交通部 | × | × | |
環境省 | 事務系 | ◯ | ◯ |
理工系 | × | × | |
自然系 | × | × | |
原子力規制庁 | × | × | |
造幣局 | ◯ | ◯ | |
国立印刷局 | ◯ | × | |
防衛省 | 事務系 | ◯ | ◯ |
施設系 | × | × | |
装備系 | × | × | |
防衛装備庁 | × | × | |
衆議院法制局 | ◯ | ◯ | |
参議院法制局 | × | ◯ |
この表からも分かる通り、検事や判事の出向がある法務省を始めとして、一部の府省等では「法務区分」の採用がありません。一方、立法作業を主とする参議院法制局に限っては、「法務区分」のみ採用があります。
まとめ
以上、「法務区分」についてご紹介してきました。国家公務員にも興味をお持ちの方は、法務区分での合格を目指してみてはいかがでしょうか。