懲戒情報|名誉毀損|2022年6月号(7)

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自由と正義:2022年6月号

弁護士会:埼玉弁護士会 

弁護士名:大塚嘉一 

登録番号:20822 

法律事務所名:菊地総合法律事務所 

処分の内容:戒告

処分の理由の要旨:

(1)被懲戒者は、自身の所属する法律事務所のホームページ中の弁護士が執筆するコラムに、PTAに関するAの言動を批判する記事(以下「本件記事」という。)を掲載した。原弁護士会懲戒委員会議決書(以下「原議決書」という。)は、本件記事中の「A(氏名)のA(名前)はなんとお読みするのでしょう。PTAをクサすから、●●●、でしょうか。頭がクサっているから、●●●に違いない。●●●なら、クソだ、まではすぐ。」との記述(以下「当該記述」という。)を弁護士職務基本規程(以下「規程」という。)第6条に反するとした。
その上で、原議決書は、本件記事が社会的な関心のある事項に対する被懲戒者の見解として表現の自由の観点から慎重な検討が必要であるとして、本件記事が弁護士の法律事務に関する職務を遂行する過程における記述ではないこと、当該記述につき民事及び刑事の手続で違法有責な行為と認定されていないこと、異議申出人の名誉感情が侵害されて不快感を抱いたことは十分に理解できるが、異議申出人は研究者且つ著名人として各方面から多様な意見批判を寄せられる社会的地位にあるから当該記述のような品位を欠く表現により侮辱されたとしても一般的、平均的な読者がかかる記述に迎合して異議申出人を貶めるとは通常考えられず、異議申出人の社会的評価や人格的評価の低下は通常考えにくいこと、当該記述が本件記事の中核的な部分を占めるのではないこと並びに事後的に被害の解消に努めたことなどを総合考慮して、弁護士法第56条に定める「品位を失うべき非行」には該当しないと判断した。

(2)しかしながら、当該記述は、異議申出入の氏名を異なる読み方で殊更に呼称した上で、これに結び付けてなされており、異議申出人の主張とは全く無関係である上に、個人の人格の象徴と言える氏名を対象に侮辱したものであって、氏名に対する記述には反論が困難であることからしても、悪質と言わざるを得ない。そして、当該記述は、もとより表現内容自体相当に侮辱的であり、論評の域を明らかに逸脱している。しかも、本件記事は、インターネット上に掲載され、無制限に拡散して被害が収束しないおそれがある表現方法でなされたものであることも看過できない事情である(現に本件記事は、インターネット上で完全には抹消できていない。)。
また、被懲戒者の反省の程度は薄いこと、本件は、被懲戒者が自身の所属する法律事務所のホームページ上に代表弁護士の肩書を付して掲載した記事であって、弁護士活動かどうかはさて措き、弁護士の行為としてなされたと認めるほかないこと、本件記事について民事刑事の責任を問われていないことが違法不当性のないことを意味するとは言えないこと、研究者や著名人であっても侮辱により名誉感情を害されることについてはそれ以外の人と差異がないことからすると、被懲戒者について酌むことができる事情として、当該記述が本件記事の一部であること、本件記事を掲載したのは一度であること及び事後的に被懲戒者が被害の解消に努めたことなど一切の事情を考慮しても、被懲戒者の上記行為は、規程第6条に反し、弁護士としての品位を失うべき非行に該当すると言わざるを得ない。原議決書にも、これを相当とする少数意見があったことが付記されているところである。

(3)以上のとおり、本件異議申出は理由があると言えることから、被懲戒者を懲戒しないとした埼玉弁護士会の決定を取り消し、被懲戒者を戒告とすることを相当とする。なお、社会的に論争となっている問題に関する弁護士個人の言論活動の中に部分的に品位を欠く表現が含まれていた場合であっても、弁護士会がこれを非行として懲戒処分とすることについては慎重かつ限定的であるべきであり、原弁護士会の懲戒しない旨の判断をあえて変更すべきではないとの少数意見があった。

 

処分が効力を生じた日:2022年4月

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