懲戒情報|処分変更|2022年7月号(13)

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自由と正義:2022年7月号

弁護士会:大阪弁護士会

弁護士名:橋本太地

登録番号:49200

1裁決の内容

(1)審査請求人に対する懲戒処分(戒告)を取り消す。

(2)審査請求人を懲戒しない。

2裁決の理由の要旨

(1)審査請求人が、依頬者である懲戒請求者から、訴訟代理人の辞任と共に着手金の一部の返還請求を受けて、辞任手続は行ったものの着手金の返還請求を拒絶し、以下のツイート(以下「本件ツイート」という。〉を発信した行為について、大阪弁護士会(以下「原弁護士会」という。)は、本件ツイートを発信した事実が非行に該当するとして、審査請求人を戒告の処分に付した。

①20191230

「金払わん奴はタヒね!」

②202034

「金払うつもりないなら法律事務所来るな。」

③同年325

「弁護士報酬の踏み倒しを撲滅するために何ができるだろうか。」「弁護士に金払わなくて平気な奴は人殺しと同じだよ。」

④同年328

「弁護士費用を踏み倒す奴はタヒね!」

⑤同年43

「正規の金が払えない言うなら法テラス行きなさい。」

⑥同年43

「金払う気ないなら法律事務所来るな!」

⑦同年45

「金払わない依頼者に殺された弁護士は数知れず。」

(2)本件ツイートの経緯は次のとおりである。

まず、審査請求人は、2019129日、懲戒請求者から辞任を求められて、裁判所に辞任手続を行ったが、懲戒請求者は、着手金の返還について具体的な請求はしなかった。審査請求人は、その後、前記①のツイートを発信した。

次いで、懲戒請求者は、審査請求人に対し、2020119日、着手金の一部の具体的金額の返還を請求したが、審査請求人が実費残額以外の金員の返還を拒絶し、着手金をめぐって紛争となったことから、同年223日、着手金返還拒絶の理由説明が虚偽である等として懲戒請求を行った。

その後、同年33日、審査請求人は、原弁護士会から懲戒請求事件の開始通知を受領し、その翌日から前記②から⑦までのツイートを発信したところ、懲戒請求者は、同年420日に本件ツイートを懲戒請求事由として追加した。

(3)原弁護士会は、虚偽説明等の懲戒請求事由は認められないと判断したが、本件ツイートについては、これらが懲戒請求者に向けられたものかどうかは明らかでないとしながら、その可能性があるとした上で、本件ツイートは全て「品位を失うべき非行」に該当すると判断した。そこで、この判断の当否を検討する。

(4)まず、ツイートの内容が、特定の相手を侮辱するものであれば、当該相手の名誉を棄損する具体的事実の記載が明白でない場合にも、非行に該当すると解される。

しかし、本件ツイートの内容は、「弁護士報酬の支払いを不履行にする者」が対象者であって具体的に名指しているものではないし、懲戒請求者は弁護士費用の清算を求めているに過ぎないから、弁護士報酬を支払わない者とまでは直ちに言えない。

確かに、本件ツイートの発信に関する経緯及び事情からすれば、本件ツイートは懲戒請求者との紛争が背景となったことがうかがわれるが、審査請求人の内心の動機がそうであったとしても非行が成立するものではない。むしろ本件ツイートは、侮辱というより、自己の愚痴や不満の感情を発散させるための手段という面も認められる。

(5)次に原弁護士会は、審査請求人の動機、目的にかかわらず、ツイートの内容自体が品位に欠けるので非行に該当すると判断したが、本件ツイートの内容は、弁護士の報酬を踏み倒す依頼者は許されないという趣旨であってその意見自体は妥当なものである。前記⑤のツイートも、法テラスの制度趣旨を貶めるきらいはないとは言えないが、虚偽の主張を含むものではない。問題は「タヒね」「人殺しと同じ」「殺された」という文言であるが、これらは軽薄で下品な表現であるものの、ツイッターは大衆が個人的意見や感情を自由に発信することが認められていること、「タヒね」は「死ね」を茶化した俗語として認識されており、文脈からしても「殺された」は被害を受けるという意味に過ぎないことからすれば、弁護士の肩書を名乗った発信であっても、いまだ懲戒処分を行うことが相当とまでは言えない。

殊に、過去の懲戒処分例においては、特定の対象者に対する名誉棄損又は侮辱行為でなく、特異な私見を公開したことだけをもって懲戒された事例は見当たらないところ、弁護士といえども、私的な発言は表現の自由の対象として広く許されるべきであり、過去の処分例との公平性を考慮することも重要である。

(6)以上のとおり、本件はいまだ「品位を失うべき」私的な非行に該当するとまでは言えない上、審査請求人も一定の反省を示していることに鑑み、審査請求人を懲戒しないものとする。

ただし、本件ツイートは懲戒請求者に向けたものと解することもできるし、それが認定できないとしても、その内容自体が、客観的に見て弁護士としての品位を欠く内容というべきであるから、原弁護士会の判断は相当であるとの少数意見があったことを付加する。

 

処分が効力を生じた日:2022年5月

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