裁判所と聞くと、多くの人は裁判官や弁護士の活躍を思い浮かべるでしょう。しかし、法の裁きが正確に行われるためには、裁判所事務官や書記官といった専門職の存在が不可欠です。彼らは、裁判の進行をスムーズにし、正義が実現されるための土台を築いています。
この記事では、裁判所の心臓部であるこれらの職に焦点を当て、その日常、役割、そしてキャリアパスについて詳しく解説します。
裁判所事務官とは?
裁判所事務官は、裁判官や書記官の業務をサポートし、裁判所の日々の運営を円滑にする役割を担っています。(詳しい業務の内容は、後記「1日の流れ」参照)
事務官の仕事
採用初年度から、各自事件部(いわゆる民事事件を扱う部や、刑事事件を扱う部など)や事務局(総務課・会計課といった裁判所内部に対する仕事がメインとなる部)に配属となり、先輩書記官等からOJT形式で仕事を学びます。
なお、総合職として採用された場合には、基本的に各高等裁判所での勤務と最高裁判所での勤務の行ったり来たりになることが多いです。一般職と異なり、裁判所の運営等に直に携わる機会が多いのが、総合職のやりがいのひとつです。
事務官になりたての頃は、裁判所の専門用語もわからないですし、裁判官それぞれに合った事務処理なども分からず、焦ってしまうかもしれませんが、先輩書記官がきちんと教えてくれますし、各種事務局の先輩も丁寧に対応してくれるので、やっているうちに力はついてきます!(裁判所職員は面倒見のいい人が多いです)
たとえば事件部では、大規模庁(東京や大阪などを指す)では特に、姉事務官・兄事務官といって、事務官職が1つの事件部に2人程いる場合もあります。そのような部に配属されれば、いわゆる事務官ならではの仕事について、その部のルーティンをしっかり教えてもらえるので、比較的スムーズに仕事ができる点がメリットかもしれません。
他方で、姉・兄事務官がいない部に派遣されたからといって、右も左もわからず大変かというと、決してそんなことはないです!!
姉・兄がいない分、最初から比較的自由に自分の色で事務官業務ができるかもしれません。また、同じ部の中に事務官がいなくても、隣の部(兄弟部といいます)の先輩事務官がとても優しく教えてくれること多数です。先輩との交流が深まる点では、こちらも大きなメリットがあります。
そして、事務官の大半は、後述する裁判所書記官になるために勉強をしている人が大半です。書記官になると、書記官手当もついたりしてお給料がぐっと上がるのが魅力ですね。
裁判所書記官とは?
裁判所書記官は裁判手続きに関する記録の作成・保管、裁判官の法律調査の補助などを行います。書記官は裁判の適正手続を確保し、法廷でのやりとりを記録する重要な役割を果たします。書記官になるためには高度な法的知識と専門の採用試験に合格する必要があります。
書記官の仕事
裁判所書記官は,裁判手続に関する記録等の作成・保管,民事訴訟法や刑事訴訟法といった手続法で定められた事務及び裁判官の行う法令や判例の調査の補助といった仕事をします(裁判所法第60条)。
裁判における適正手続を確保するため,法廷でのやりとりを法律的に構成した上で,必要な事項を記載した調書を作成したり,判決等に執行力を与えるための要件である執行文を付与したりします。この、裁判所書記官が作成する調書には強い力があります。法廷でどのようなことが行われたかなどを公に証明する文書として、裁判の内容がこの調書によってのみ証明されるのです!
また、裁判員裁判でも、くじで選定された裁判員候補者の呼出しや,裁判員等選任手続への列席・調書の作成といった事務も行います。
上記のように、裁判所書記官は,裁判手続のあらゆる場面において正確かつ高度な法的知識が求められるため、後述するような採用試験に受かる必要があります。
1日の流れ:裁判所事務官編
始業:8時30分
裁判所の始業時間は8時30分がデフォルトですが、15分刻みで遅出も申請できます。
午前中の業務
【主な業務】
電話対応・窓口対応・期日の準備
事務官の主な業務は、なんといっても電話対応です。1コールで取れるように叩き込まれます!!
そして弁護士事務所とのやり取りをし、必要に応じて担当書記官につなぐなどし、円滑な裁判運営のためにサポートします。
また、窓口対応も重要な仕事です。事件部の窓口には毎日たくさんの方が来庁されます。事務所の職員さんはもちろん、訴訟の当事者など多様です。用件を伺い、判決書を送達したり、書証を受け取ったりなど、訴訟運営にあたって重要な役割の一端を担うことになるので責任重大です。受領印の押し方、押すべき書類・押してはいけない書類など、多様に覚えることがあるので、メモを片手にしっかり覚えて、成長しましょう!!
また、午前中には新件といって、新しい事件が来ることも多いです。まずは事務官が形式等のチェックをし、裁判官のチェックをもらい、その後各係に配転します。新しい事件を一番最初に見ることができる立場なので、面白さも感じる反面、重たい事件だと改めて身が引き締まる思いもします。
12時15分~13時:お昼休み
裁判所のお昼休みは45分しかありません!
なので、必然的にみんな食事のスピードが上がります(笑)
お昼休みといえども、窓口にいらっしゃる方はいるので、その都度対応します。部によっては、お昼当番を決めて、その人が今日は窓口を担当するなど決めているところもあります。
短い休み時間ですが、散歩に出たり外食したりもできるので、慣れが大事です!!
午後の業務
【主な業務】
郵便処理・窓口電話対応・翌日の準備
事務官の午後は、午前中以上に時間との勝負です!裁判所では、郵便回収の時間が2回あるのですが、その2つは性質が違う上に締め切り時間がシビアに決まっているので、遅れないように準備をします(もし遅れてしまうと、書記官に日付の訂正印などをもらったり、仕事を増やしてしまうことになりかねないので緊張します)。
また、午前同様窓口や電話対応も行いますが、たとえば和解期日がラウンド法廷であったりすると、その部屋の準備なども必要となるので、自分の中で優先順位を設けてこなしていかないとキャパオーバーになります。ミスにもつながりかねないので、明日で間に合う仕事は後に回すなど、考えながら回していくことが求められます。
優先順位のつけ方は、主任や先輩書記官が丁寧におしえてくれますし、研修などで過誤事例を通して反面教師にしたりして学びます(苦笑)
また、明日の期日の準備を今日中にすることも多いです。期日表を印刷して法廷前に貼ったり、弁論準備の部屋割を決めたりなど、慣れないとあたふたしますが、徐々にうまくなっていきます。
また、FAX処理も重要です。裁判所に届く書証はほとんどFAXなので、10分に1回くらいはFAXを確認し、急を要する資料はすぐに担当書記官に渡せるように、気を配っておくことが必要です!(期日があるのに書面が裁判官の手元にない・・・なんてことになったら大変です)
17時:終業
裁判所では、その日のうちに済ませないといけない仕事が終われば、皆定時で帰る人が多い印象です。残業をする場合には、上司に事前申請の上行います。
裁判所では、野球やフットサルなどのサークルを持っているところも多いので、アフター5は思い思いに楽しんでリフレッシュする人も多いです。同期でごはんに行ったりもします。
1日の流れ:裁判所書記官編
8時30分:始業
事務官同様8時30分に始業です。繰り返しになりますが、15分刻みで遅出も申請できます。
午前中の業務
【主な業務】
電話対応・窓口対応・期日立ち会い
書記官の仕事の一番大きなものは、やはり期日の立ち合いになります。
民事部だと、書面の確認や次回期日の確認などで10分ほどで終わることも多いですが、尋問などになると数時間かかることもあるので、皆証拠調べの日は気合が入っています。また、書記官も電話対応や窓口対応をします。
事務官よりも専門的に、弁護士と次回期日の打合せをしたり、書面の不備などの訂正をお願いしたり、結構骨の折れる業務です。
12時15分~13時:お昼休み
ここも事務官と一緒です!裁判所の昼休みは45分しかありません!
午後の業務
【主な業務】
窓口電話対応・判決書のチェック・送達
書記官は、やはり午前同様期日の打合せや期日の立ち合いがメインになりますが、午後になると増えていく印象があるのは、裁判官が起案した判決書のチェック業務です。
誤字脱字はもちろん、損害賠償金の額の算定が間違っていないか、時には法律構成にいたるまで、しっかりチェックをします。裁判官と書記官はまさに二人三脚で訴訟を運営していくため、裁判官1人では決して仕事ができませんし、書記官もまた、よりよい裁判の実現のために裁判官をしっかりサポートして、コートマネージングをします。
17時:終業
ここも事務官と一緒です!
仕事が終わっていたら定時で帰る人が多いです!
裁判所事務官・書記官になるには
裁判所事務官になるためには、まずは裁判所書記官採用試験を受験する必要があります。R5年度から試験日程が変更となり、5月2週目に一次の筆記試験、その後、総合職の場合には二次の筆記試験が6月上旬にあります。司法試験前に筆記試験が全て終わるので、司法試験直前期ではありますが、実力確認兼最終調整として、骨のある裁判所の試験を受けてみるのはオススメです。
もっとも、三次試験の面接試験は、おそらく司法試験受験の翌々日からスタートするので、面接対策の時間をどう取っていくかが合格のキーになると思います。早め早めの対策を心がけましょう。特に、裁判所総合職は、霞が関の人気省庁総合職に次ぐ難易度と言われており、その倍率も非常に高いです。
R5年度の総合職(院卒)の倍率は、
管轄区域 | 最終合格者 | 倍率 |
---|---|---|
札幌高等裁判所 | 0名 | – |
仙台高等裁判所 | 0名 | – |
東京高等裁判所 | 2名 | 9倍 |
名古屋高等裁判所 | 0名 | – |
大阪高等裁判所 | 1名 | 13倍 |
広島高等裁判所 | 1名 | 1倍 |
高松高等裁判所 | 0名 | – |
福岡高等裁判所 | 6名 | 7.3倍 |
と、非常に高いです。
合格者数が0名になることも多く、一定の基準に達しなければ厳しく落とされる試験です。
裁判所書記官になるには,裁判所職員として採用された後、裁判所職員総合研修所において研修を受けて必要な知識等を修得することが必要です。通常、毎年7月に筆記試験があります。
ロー生の場合は、法学履修者ということで1部制の採用試験を受けることになると思います。試験科目は、憲法・民法・刑法・刑訴か民訴のうち1つです。
筆記試験に合格すると、次は面接試験です。面接試験では、志望理由や実績などをアピールしたりもしますが、法律知識の口述試験もあります。要件事実や重要判例の理解を問われたりするので、しっかり対策したいところです。
なお、裁判所事務官採用試験の段階で総合職として採用された場合には、採用後最初の試験を受験するときに限り筆記試験は免除となり、面接試験だけで済みます。
まとめ
いかがでしたか?
普段あまり見ることのできない事務官・書記官の仕事についてまとめてみました。
高い法律知識が求められ、かつ、書記官に関しては不在だと裁判にならない点で、非常に重要な仕事でありやりがいも大きいことが伺えますね。ローを卒業したあと、法曹三者だけでなく、「裁判所で働く」という働き方も選択肢の1つとしていかがでしょうか?