独禁法(又は競争法、反トラスト法)は経済のために必要不可欠な法律であり、主として市場経済を活性化し、消費者の利益を増進することを目的としています。
実際の事件では、国の執行機関が企業の行動を調査し、消費者の利益を損なうような場合、例えば、その行為が自社の市場における独占力を維持・強化するためのものである場合、命令や裁判を通じて、その行為を禁止したり、制裁的に金銭を支払わせたりします。
このように、独禁法事件では、主に企業の行為が市場経済に及ぼす影響が問題となり、消費者である我々にとっても身近な有名企業の行為が対象となることも多いです。
しかし、企業の活動を制限するという意味では、かえって自由な市場経済を損なう危険性もあります。
特に、現代的なテクノロジー企業の新たなビジネスモデルに対する適用は、その影響が予測困難な場合も多く、しばしば議論の対象とされています。
そんな中、2023年9月26日、FTC(米連邦取引委員会)等が反トラスト法違反を理由にAmazon.comを提訴しました。
本記事では、この事案について、執筆時点(2023年11月4日)で判明している限りの情報を基に、簡単なご紹介を行いたいと思います。
なお、本記事は、同年11月2日に改訂版の訴状が公表され、当初は黒塗りにされていたFTCの主張の一部が明らかにされたことから、速報として執筆されたものであり、必ずしも正確性を担保するものではないことをご理解ください。
FTCの主張
FTCは、Amazonの中心的なビジネスである、ECサイトにおける競争の制限を問題にして提訴しています。
そこでは、Amazonのあらゆる行為が問題となっていますが、主要なものは以下の通りです。
以下の事実は、あくまでFTC側が主張している事実であって、現実にそのような事実があったか否かはこれからの裁判で明らかにされていきます。
反価格引下げ措置
1つ目は、商品の価格引下げを阻止する行為です。これには、主に、二つの方法が用いられていました。
- インターネットの監視&販売業者に対する制裁措置
Amazonは「競争監視チーム」を設けて、インターネット上の競合サイトにおける商品価格を自動検索するWEBクローラー技術によって、Amazonより他のサイトで安い価格を付けて販売している販売業者がいないかを監視していました。
そして、そのような販売業者に対しては、制裁として、Buy Boxから削除したり、サイト内での検索結果をわざと引き下げたり、商品価格を非表示にしたりするなど、様々な措置を行っていました。
これによって、販売業者は他のサイトでAmazonより安い価格を付けることを躊躇するようになり、ECサイト全体で対象商品が高価格になってしまったのです。 - 価格変動追跡アルゴリズム
また、Amazonは独自のアルゴリズムを開発し、他のサイトで商品が値上げ又は値下げされると、その価格変動後の最安値とAmazonの商品の価格が一致するように、自動で価格を模倣していました。
そして、競争業者は値下げをしても利益が出ないことを知り、ゲーム理論に基づき値下げへのインセンティブを失うように仕向けられていました。
これによって、①と同様に、競争業者は安い価格を付けることを躊躇するようになり、ECサイト全体で対象商品が高価格になってしまったのです。
FBAの利用強制
2つ目は、FBA(Fulfillment by Amazon)という、受注から梱包・発送までの過程を履行する注文調達サービスに関する行為です。
Amazonは「Prime」という会員制度を採っているところ、販売業者にとってはPrimeの対象となれる資格(「Primeバッジ」)を得ることがAmazon上で売上を伸ばすのに何より重要です。
しかし、Amazonはこの資格を得るために「FBAを利用すること」を条件としていました。
そうすると、Amazonのみならず他のサイトでも販売を行うことを望む販売業者は、Amazon用の在庫と他のサイトの在庫を別々に維持・管理しなくてはならず、費用がかさんでしまいます。また、他の安価な注文調達サービスを利用したくても、FBAを強制的に利用されているため、結局Amazonのみを利用することになってしまいます。 これによって、販売業者は複数拠点での販売を制限され、Amazon以外の注文調達業者は競争できなくなってしまったのです。
ネッシー計画
3つ目は、ネッシー計画と呼ばれる、これまた特殊なアルゴリズムを利用した行為です。
Amazonは商品の価格が引き上げられた場合に競争業者が同じく価格を引き上げる可能性を予測するアルゴリズムを開発し、競争業者も価格引上げを行いそうな商品を対象に実際に値上げを行いました。
しかし、競争業者も値上げを行えば消費者に気づかれずに値上げが成功します。
Amazonはこのような行為を「ネッシー計画」と名づけて、既に実行し、これによって10億ドルもの利益を上げたようです。
Amazonの行為と効果のまとめ
問題の行為 | 生じ得る効果 | |
---|---|---|
(1) | 反価格引下げ措置 | 他サイトを含めた高価格化 |
(2) | FBAの利用強制 | 複数拠点販売の制限、注文調達業者の排除 |
(3) | ネッシー計画 | 値上げの成功 |
このように、FTCはAmazonの様々な行為が市場競争を制限し、これを正当化するような事由はないと主張しています。なお、これらの行為は、いずれも互いに補強し合うことで更に競争を制限すると主張されています。
▼FTCのプレスリリース▼
Amazonの主張
これに対して、Amazonも反論を行っています。
FTCの上記主張に対する具体的な反論は今後の裁判を通じて明らかにされていくと思いますが、現時点でのAmazonの主張の概要は以下の通りです。
顧客に低価格をもたらしていること
Amazonが価格を監視したり追跡したりしているのは、顧客に低価格な商品を販売するためです。
低価格な商品を提供することはAmazonの売りであり、全ての小売業者にとっての基本です。
FTCの主張は、そのような消費者にとって利益となる行為を禁止しようとするもので、かえって競争を制限することになってしまうのです。
FBAを含めて独立の販売業者が成功するように様々な方法で努力してきたこと
Amazonは元々小売業者でしたが、消費者により良い購入体験とより多くの選択肢を与えるために、独立の販売業者もサイト上で販売できるようにして、更には同じ商品ページでそれらを比較できるようにしました。
FBAも、販売業者が消費者に素早く・信頼できる・効率的なサービスを提供できるように利用を認めたもので、もちろん販売業者は他のサービスを利用することもできるのでAmazonは何も強制していません。
FTCの主張は、FBAの利用を強制しているとする点で端的に事実と異なっていて、むしろ販売業者の選択肢を増やしているのであり、結果的には販売業者にとっても顧客にとっても利益になるものです。
Amazon Primeを顧客にとって魅力的なものにするため革新していること
Amazonの遺伝子にとって、「革新」こそが核であり、顧客を喜ばせるために、例えばAmazon Primeはどんどん進化してきました。
最近では、配達速度がこれまでで最も速くなったり、輸送サービスを販売業者のサイトでも利用できるようにしています。 FTCの主張は、このような顧客に愛される素晴らしい体験であるPrimeを競争の制限と考えるものであり、我々は強く反対していこうと考えています。
▼Amazonの声明▼
まとめ
以上、最新の独禁法事例を簡単にご紹介してきましたが、いかがでしたか?
皆さんもほとんどの方がAmazonのショッピングサイトを利用されたことがあるのではないでしょうか。
その意味でも、海外の事例ではありますが、とても身近な話題であり、法律的にも興味深い論点が多いので、産業界からも法曹界からも間違いなく注目されていると思います。
現時点では、まだ裁判は始まったばかりなので、今後の動向が気になるところですね。 皆さんもぜひ、この裁判の展開をチェックしてみてください。