ロースクールから博士課程への道を歩む学生が直面する現実とは?
本記事では、実際に法学研究科博士課程で学ぶAさんの体験を通して、進学の動機、日常生活、そして博士課程の学びの本質に迫ります。研究者に興味がある方、博士課程に関して疑問がある方、必見です!
進学の動機
博士課程への進学の動機は何でしょうか?Aさんは法曹志望とのことでロースクールに進学しましたね。
そして司法試験に合格し、法律事務所からの内定も出ていると聞きました。
端的に言うと、憲法学の研究者になりたいからです。なぜ憲法学の研究者になりたいかというと、憲法学の理論的な議論に魅せられたからです。私が初めて衝撃を受けたのは、小嶋和司先生による解散権論争についての通説批判です。
これは通説が当たり前に考えていたことを根本から批判できているもので切れ味が鋭いと感じたことを覚えています。そして、所属していたゼミの先生が毎週配る課題論文を読んでいくうちに、憲法学の奥深さに触れ、憲法学を研究したいと考えました。
他方、法科大学院で学んでいて、実務の面白さにも触れました。しかし、法律事務所へインターンをしたときに、担当させてもらった事件について、正直なぜ争っているか分からず、自分がその事件に情熱をささげられないと思いました。
そうであれば、自分が興味を持てる憲法学の理論的な研究に生涯の時間を費やした方が良いと思いました。
ローから博士への進学の仕方
ロースクールから博士へはどう入るのですか?
また博士卒業してからの先があんまりわからないんですが。
法科大学院生が博士課程へ進学するためには、入試が当然あります。この入試の必須要件として、リサーチペーパーの提出が求められます。そのため、リサーチペーパーを書き上げる必要があるのですが、それは在学中に法科大学院の先生と相談して、書き上げることになります。
また、入試の中には、英語の試験があります。修士から進学する人は、英語以外にももう一つ言語の試験があるのですが、法科大学院から進学する人は、その試験が免除されます。ただし、自身の研究対象となる分野について、比較法研究が必要な場合は、英語以外の言語も習得しておくことが望ましいです。
博士課程を卒業するには通常博士論文を提出する必要があり、これが非常に困難を極めます。そのため、単位取得退学という道もあり、後に博士論文を提出するパターンとなります。
博士課程を出た後は、大学のポストに就けるのが理想です。このポストにも任期付きと任期なしの2つがあり、任期なしのポストを得られると生活の基盤が安定します。
博士課程の金銭事情
博士課程の金銭事情はどうなんでしょう。
奨学金を得ていたりバイトはしてますか?
法科大学院卒の人向けに大学からポストを用意してくれて給与を支払ってくれる制度があります。もちろん、給与をもらう以上、そのポストに就くためには審査がありますが、必要以上に身構える必要はありません。
この給与以外は学部時代や法科大学院時代と変わらない奨学金をいただいています。博士課程に進学する人やそもそも大学院に進学する人が少ないため、奨学金獲得競争の倍率は低いように思われます。
そして時間の余裕があるので、アルバイトもできますし、大学が法科大学院卒のためのポストを用意してくれることもあると思います。加えて、法科大学院を卒業しているということ、司法試験や予備試験に合格しているということは、他の大学院生より法学一般の知識があると思われるようです。
そのため、一般論として、講師の仕事も可能であると思われます。最後に、研究費を外部の機関から頂けるようになると、経済的に豊かになると思われます。
普段の過ごし方について
普段どんなを生活しているんですか?
基本的には週に一度大学に顔を出し、1コマの授業と1コマのゼミを履修しています。博士課程は必要な取得単位数が少ないため、多くの時間を自分の研究や勉強に充てることができます。
現在ではzoom等を使ったりして博士課程の先輩方が一緒に一冊の外国語の本を講読してくれたり、現在は指導教授の先生が外国語の文献を一緒に読んでくれたりします。また、時には他の大学に顔を出すこともあります。
大学に行かない日は、家で語学の勉強をしたり、大学へ行った日にコピーした論文を読んで論文を書いたり、バイトをしたりしています。割と自由度が高いと思われます。
博士での興味深い話
博士課程のイメージが浮かぶような、博士ならではの興味深い話ありますか?
興味深いかは分からないんですが、博士課程にいる諸先輩方は、後輩を非常に大事にしてくれます。そもそも先輩方の人格が素晴らしいことは大前提ですが、外在的な要因を考えると、後輩が先輩にとっても数少ない同志であること、後輩の悩みは先輩自身が通ってきた道だからということもあると思います。私自身も先輩方に恵まれ、研究の相談や日々の相談まで何でもお話させていただき、いろんなことを教えていただいております。
また、先生方や先輩方の先生としての苦労話などを伺うことができます。例えば、現在ですと、ChatGPT対策をどうするかという話が面白いです。それぞれの先生がそれぞれの方針で対策を練っており、学生目線からでは分からなかったことが多いです。
加えて、先生方から頼まれごとをすることがあります。例えば、ある先生の著作の判例索引を作ったり、脚注をそろえたりすることがあります。このように、本を作る側について知ることができ、謝金やその本をいただくこともあります。また、ご著書の製作秘話やどれだけ売れているかについても伺うことができます。
そして、有名な先生方と直接話す機会に恵まれます。先生方の論文における主張のみならず、私生活のお話や人柄を知ることができ、非常に興味深いお話を聞くことができます。無機質にみえていた論文が血の通った人によって書かれていることを実感できます。
ロースクールからの進学特有の大変さ
法科大学院生から博士に入るということは、修士卒の学生と合流することになりますよね。
大変なことはありますか?
博士課程での学びは非常に楽しいですが、大変なこともありますね。まず、言語の壁です。法科大学院生は、一般的に日本語文献ばかりを読みますが、憲法学は比較法がメインですので、他の言語を習得しなければなりません。周りの先輩後輩はとても語学に長けているので、比較してしまうと苦しくなります。
次に、法科大学院以外の修士課程から進学する方々は、修士の2年間、自身の専門分野を研究し続けているので、自分の研究、特に比較法研究が全く進んでいない現状に直面します。さらに、ゼミにおいても、各学生が自身の比較法から得られた示唆を共有しているため、自分が比較法に精通せず、自分の知識がいかに日本法内在的なものであるかを実感します。
以上のことは修士の2年間を比較法研究に費やしてきた方々と比較している以上、当然の結果だと思います。特に、博士課程入りたての頃は、自分の知識不足に直面し苦しかったですが、その際には優しい先輩方にいろいろと質問したり、教えていただいたりすることができました。
現在も自分の知識不足に悩んでいますが、悩んでも仕方のないことですので、とにかく勉強するしかありません。
また、優しい先輩からは、今感じる知識不足は何年も研究していればなくなっていくから安心して研究するように言われました。自分も何とか克服できるように努めていきたいです。
法科大学院から進学することでのアドバンテージ
逆に法科大学院から博士へ進学することのアドバンテージについて教えてください。
法科大学院生は、日本法に詳しいことが逆にアドバンテージとなります。まず、憲法以外の法律について、一通りの知識があることは研究にとっても有益です。
現在、私は、憲法学を主な研究対象にしていますが、そのうち憲法学から見た刑事訴訟などを研究したいとも考えています。また、当然ながら行政法についても議論の内実をすぐに理解できることも重要です。
加えて、判例の知識は法科大学院生の方が他の大学院生よりも豊富であるように感じられます。実際、博士課程に入って、自分自身が判例研究の論文を書かなければ、判例についてはほとんど触れることがありません。
そのくらい博士課程に入ると判例からの距離ができてしまうことは事実です。そのため、法科大学院で学んだ判例の知識をフル活用して、日本法内在的な議論を行うにはアドバンテージがあるように思われます。
最後に
インタビューにご協力いただきありがとうございます。
最後に博士課程全般に関する雑多な感想があればお願いします。
正直なことをいうと、弁護士になった方が生涯年収は多いことは間違いないと思われますし、周りの大人たちからは司法試験に受かったのにどうして弁護士にならないかということをよく問われます。
その際に、私が憲法学に興味を持ったからですと説明しても、全く理解されず、研究者の社会的意義などを話してやっと理解してもらうことができているように思われます(理解はされていないようにも思われます)。
そのたびに私は、弁護士になることは無条件にみな賛成するのに、研究者になることには反対されるのは何故だろうと自問しております。研究者になることに賛成してくれる方は、君の志を貫きなさいという話をしてくれて、そのたびに涙が出そうになります。
法科大学院から研究者を志すことは、社会的にも経済的にも容易ではないように思われますが、特定の学問領域に興味があれば、この道を選んでよかったと思える日がいつか来ると信じています。
そして、この道が失敗だったと思う日が来れば、その時に方向転換して実務の世界に出てみたいとも考えています。
まとめ
ロースクールから博士課程へ進むことは、憲法学を深く掘り下げるための決断でした。Aさんの体験からは、学問への情熱と研究生活のリアルが浮き彫りになります。
博士課程は言語の壁や専門知識の深化など、多くの挑戦を伴いますが、これらを乗り越えた先には研究者としての成長が待っています。