法科大学院の学びにおいて、「リーガルクリニック」という科目が注目を集めています。この科目は、法律実務における実践的なスキルを学生に提供し、特に法律相談業務に焦点を当てています。
本記事では、リーガルクリニックの目的、内容、そして学生にもたらすメリットを掘り下げていきます。この科目を通じて、学生たちは現実の法律問題に対応する能力を身に付け、実務経験を積む機会を得ることができます。
法科大学院とは?
皆さんは、法科大学院(ロースクール)がどんなところかご存知でしょうか?
前回及び前々回の記事でご紹介したように、現在の法科大学院には、
- 司法試験の受験資格を獲得する
- 前期修習を行う
という2つの意義があるといえます。
前回の記事に引き続いて、本記事では、このような法科大学院の2つ目の側面に着目して、修習同様に実務的な経験を積むことができる「リーガルクリニック」という科目を紹介したいと思います。
法科大学院への進学を検討されている方々や、通常の法学部と法科大学院ではどう違うのかに興味がある方々は、ぜひこの記事を読んでいただけると幸いです。
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「リーガルクリニック」とは?
多くの法科大学院では、2年次頃に「リーガルクリニック」という科目があります。
「クリニック」と聞くと、
「医者でもないのに、法律家が病院で何をするの?」
「医事法のような特殊な分野の話をしているの?」
と、混乱される方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、ここでいう「クリニック」とは、病院や診療所といった場所自体を指すわけではありません。むしろ、病院や診療所で行うような『行為=臨床』のことを表しています。
つまり、病院や診療所で現実の患者さんに対して医師が臨床医学を行うように、法律家が現実の依頼者や相談者の方に対して行うことを「臨床法学」と言い、これを英語では「リーガルクリニック」と呼ぶのです。
法科大学院の多くの授業や司法試験対策のほとんどは、机に向かって教科書や参考書に書いてあることを理解し、頭に叩き込む作業です。しかし、実務家になれば、知識は大前提であって、とりわけ弁護士にとっての主たる職務は、法学の知見を活かして目の前の依頼者の利益を実現することにあります。
このように、長年の蓄積に基づく法的知識を現実の依頼者・相談者のために応用し、その問題解決を図ることこそが法律実務であり、そのような実務的アプローチを一つの授業科目に還元したのが臨床法学という学問分野です。
「リーガルクリニック」や「臨床法学」、「法律相談クリニック」など、名称は大学院ごとに異なりますが、いずれも同様の目的の下に開講されています。
以下では、その特徴や実際の内容を具体的なイメージがつかめるように紹介していきたいと思います。
実施目的
まず、実施目的は上述の通り実務的なアプローチを学ぶことにありますが、その主たる対象は「法律相談業務」です。
「臨床法学」という学問は、法律家、特に弁護士が、依頼者や相談者に対してその法的知識を応用して問題解決の糸口を示す実践から生まれたものでした。
そのため、確かに、広くは「エクスターンシップ」のような実地研修をも含めた概念として用いられることがあります。もっとも、今回取り扱うのは、授業科目として「エクスターンシップ」とは区別されたものであるため、法律相談業務の実践を学ぶものを対象とします。
具体的には、弁護士が依頼者・相談者に対して法的アドバイスを行うという法律相談業務にフォーカスを当てて、そこで必要となるスキルの獲得に向けられたものになっています。
実施場所・実施時間
次に、実施場所は通常の教室の場合もありますが、そうでない場合もあります。
この科目は、実務家が現に行っている法律相談業務における実践的なアプローチを体得することが目的であるため、必然的に現役の弁護士の方々の協力が不可欠であり、そのような授業に協力してくださる弁護士の先生方の元で実施することがあるのです。そのため、法科大学院の教室ではなく、実務の現場である法律事務所の会議室や相談室で実施される形を取ります。
それゆえ、実施時間も、通常の時間割上の開講時間とは独立に、事務所や弁護士の方々の都合に合わせたものになる場合が多いでしょう。
実施内容
ここでは、ある法科大学院における具体的な実施内容をご説明していきます。
個別的な内容については、法科大学院や年度ごとに大きく変動する可能性があるので、あくまで参考としてご覧ください。
そこでは、大きく分けて以下のような2つの内容があります。
- 法律相談同席
- 法律相談体験
「①法律相談同席」は、文字通り実際の法律相談の現場に同席することです。法律事務所内にある個室の相談室で、依頼者や相談者の方と向き合って弁護士の先生の隣に座り、相談業務を間近で見学することになります。そこでは、およそ30分程度の限られた相談時間の中で、的確な法的アドバイスを行うために、いかなる事項を聞き取り、いかなる事項を説明するか、という弁護士に必要不可欠な技術が要求されます。
これは、法廷での訴訟活動などと比べて、ともすれば少し地味に思えるかもしれません。しかし、法律相談業務は、見かけ以上に非常に困難なものであり、重要な職務の一つです。そのような実践を目の前で体感することができるのは、②の前提知識としても、将来自分が相談を受ける側になった場合のためにも、非常に有用な機会と言えます。
「②法律相談体験」は、法律相談業務を学生自らが実施し、体験することです。実際の法律相談は資格がない以上まだ行うことができないため、弁護士の先生方が相談者に扮してくださり、反対に学生側が弁護士役になりきって法律相談業務をこなしていきます。人数の都合などによりグループで実施することが多かったので、困ったら学生同士協力することもできました。周囲の学生はこれを見学しながら、何か意見や質問があれば、相談時間終了後に共有して全体で議論していく形です。
実際の事件のような具体的かつ現実的なシナリオの相談が、様々な分野から出題されます。私が通っていた法科大学院の場合は、民事の法律相談の回と刑事の接見の回が両方あり、学生は各自の希望に応じて好きな方を体験していました。いずれもどんな相談内容かはわからないので、本番さながらに事前準備はほとんど不可能であり、その中でもなんとか最善の法的助言ができるよう、聞き取りからアドバイスまで学生のみで実践します。
実施にあたって意識すべきポイント
①・②のどちらにしても特徴的なのは、通常の法律科目の試験問題と異なり、法的知識を適用して答えを導き出す前提となる事実があらかじめ存在せず、それを引き出すことまでをも自ら行わなければならないことです。
問題用紙に既に事実が書いてあるのと異なり、法的に重要な事実を自ら聞き出す必要がありますが、相談者の方は当然法律の条文を知っているわけではないので、不要なことばかり話したり、はたまた重要なことは話してくれなかったりします。
そのような場合には、自ら話の舵取りを行い、筋道や方向性を修正して、欲しい事実をきちんと必要十分に時間内に聞き出さなくてはいけません。
もっとも、法律相談に来るということは、相談者の方は現在なんらかの紛争に巻き込まれている可能性が高く、あまり話を遮ってしまうのではなく、ある程度耳を傾けてあげる必要もあります。こうした意識は条文や過去問、参考書等と向き合っている限り気にする必要はないですが、実務に出たら強く心がける必要があるでしょう。
「リーガルクリニック」の魅力
これまで見たところや臨床法学の一般的特徴からリーガルクリニックの魅力をまとめると、以下のようになります。
- 法律相談業務の現場に同席して、実務家の方の相談対応技術を間近で学ぶことができる
- 法律相談業務の実践を体験して、その難しさや必要な意識・能力を養うことができる
- 法律が社会に役立つことを実感して、勉強のモチベーションを高めることができる
- 将来のキャリアにつながる人脈を得ることができる
弁護士としての法律実務の体験は、エクスターンシップやサマクラーク、弁護修習などを通じても実施されます。しかし、法律相談に特化した体験、特に自ら相談を受ける側の立場を体験できるのは「リーガルクリニック」だけとも言われています。
まとめ
以上、法科大学院科目「リーガルクリニック」についてご紹介してきました。リーガルクリニックに興味を持った人は、法科大学院に進学してみてはいかがでしょうか。